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by sasakijo

『婢伝五稜郭』早めのレビュー

舞台版『婢伝五稜郭』の初の通し稽古に立ち会ってきた。

榎本武揚降伏のシーンはラ・マルセイエーズの合唱に送られる、と案内してきたけれど、曲が背後に流れるという演出に変わっていた。
以下は、レビューの代わりとして。

わたしの『五稜郭三部作』は、いわばストレートな革命劇だった。舞台版『婢伝五稜郭』は、原作の女性たちの役割を大きくし、さらに何人もの女性の視点を付け加えることで、「維新」と「共和国」との大義の対立を相対化している。

このような言い方もできる。榎本軍の男たちが共和国建国の「理念」を体現しているとすると、女たちは、その具体化としての「関係」と「共同性」のありかたを示す。明治新国家の「中央集権」「富国強兵」の構想に対する、強力な「身体性のある異議申し立ての存在」としての女性たちだ。

登場するアイヌとロシア人の混血、マルーシャは『北辰群盗録』の、高松凌雲の病院の看護婦、朝倉志乃、ガルトネルの内妻セツは『婢伝五稜郭』の登場人物だが、会津藩から榎本軍に身を投じた女剣士・中山と、手品師・松旭斎天良、は、舞台版のオリジナル。

さらに女性コロスは、女たちの言葉にもしようのない情念の部分を、歌とダンスとで表現する。顔合わせのときに演出の高橋征男が「この舞台ではコロスもテーマとメッセージを背負う」と話していたが、そのとおりだった。

とまあ、わたしの作品のテーマについ引きつけて語ってしまったけれども、きわめて視覚的にも派手なエンターテイメント作品。中島三郎助父子の戦死の場面(ふたりの息子を女優さんが演じる)ほか、迫力ある殺陣も見ものだ。

勝者が歪めて語ってきた箱館戦争について、敗者が語り直した物語。原作に生命を吹き込まれたような想いで、わたしは通し稽古を凝視していた。
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by sasakijo | 2010-10-03 21:31 | 日記