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by sasakijo

『星の王子さま』の非ファッション的読み方

『星の王子さまの世界 読み方くらべへの招待』(塚崎幹夫、中公新書)
コンテナでどっと届いた古書のうちの一冊。

82年にはすでに、『星の王子さま』をこう解釈する論考が出ていたのだね。というか、岩波書店が刊行したのが53年だから、それでも遅すぎないかという気がしないでもない。本書はきわめて挑発的とも言える『星の王子さま』の通俗解釈批判である。

序文で著者は書く。
「私はいまこの書物を、現下の世界の危機にどこまでも責任を感じて思いつめる一人の「大人」の、苦悩に満ちた懺悔と贖罪の書であると受け取っている。他方、人びとのいっているところから判断すると、彼らはこの書物を逃避か、免罪か、ナルシズムの書物と、どうやら理解しているらしく思われるのである」

こういう一節もある。
「この書物の特権的読者であることを証明するためには、純真で無邪気であることを証明する以外にはないからである。思考力も判断力も想像力も捨ててしまった一種の痴呆状態が、この書物を読むのに要求されている純真さと無邪気さの至高の状態だと、理解しているのではないかと疑わしくなるような例さえ珍しくない」

岩波書店は、本作の新装版を出したとき、バオバブの挿絵を収載しなかったという(いまの版では復活とか)。それまで日本の読者はバオバブの木の暗喩の重要性をまったく意識していなかったということになる。それほどの誤読が続いていたのだ。

わたしも、童心やら純粋、純真といったキーワードが頻出したこの作品の当時のもてはやされかたのせいで、四十年前は反ファシズムがテーマの書とは受け取れなかった。すでに『人間の土地』(筑摩の世界教養全集の一冊だったと思う)を読んでいたから、ファッションのように読まれている童話はいやだ、と最初から敬遠気味だったのかもしれない。
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by sasakijo | 2009-04-09 16:57 | 日記