ここは佐々木譲が開設している備忘録ブログです。日々の暮らしと、本、映画について書いています。


by sasakijo

政治的想像力をめぐる問題

1990年ころ、リアルなポリティカル・フィクションを書きたくて、勉強と取材を続けていた。政権交代がなるかならないかをクライマックスのサスペンスとする物語の構想だった。社会党広報を通じた正規のルートで、多くの社会党議員、秘書、職員、OBたちに会った。いちばん多く取材させてもらったのは、仙谷由人議員と、故石井紘基氏(当時は表向き江田五月の公設第一秘書。じっさいは衆院選に向けて選挙運動に入っていた)。

そのころ、社会党は社公民路線(社公民連立政権)を追求していた。しかしわたしは、近い将来政権交代があるとしたら、自民党の分裂、その分裂したグループと社会党の連立、という形がもっとも濃厚に現実的ではないかと考えるようになっていた(しかし当時、どんな政治評論家もメディアも、その可能性について語ってはいなかった。少なくともわたしは目にしたことがない)。

取材の中で社会党関係者にその可能性について問うと、例外なく誰もが笑った。
曰く「自民党はそう簡単に分裂しません」「権力の求心力は強いんですよ。自民党の分裂はありえません」
ある大物議員の秘書は、わたしに哀れむような目を向けて言った。
「新聞には政治面というページがあるんですが、あそこを読むことから始めたらいいと思いますよ」

でもわたしには、どうしても社公民連立政権構想のほうが途方もなく非現実的な夢想としか思えない。なので、自民党の一部と社会党の改革派リーダーが組んで政権奪取に出るという、近未来政治小説を書いた。

『愚か者の盟約』(講談社、1991年7月刊行)

もちろん刊行時も、たぶん一般的には、ありえない話としてしか評価されなかったのだろう。

しかし刊行からちょうど二年後、自民党は分裂、社会党との連立による細川政権が誕生した。評論家の高野孟氏は、テレビ番組で拙作を取り上げ、「この事態を予言した小説があったんです」と紹介してくれたという。

しかし、自民党との連立という事態を想像もしていなかった社会党は、その事態に右往左往、けっきょく解党への道を歩む。

さて、きょうの午後、新聞の号外を受け取った。「民主代表に鳩山氏」という大見出し。岡田克也氏とは29票差での勝利、とある。記事では「(鳩山氏は)旧民社党、旧社会党グループに浸透し(た)」とのことだ。

あのひとたちは、相変わらず政治的な想像力に欠けた愚か者たちである。彼らは、政権奪取のためにいま何をなすべきであったか、その判断もつかない。というか、政権奪取があらゆることに優先する追求目標である、という問題意識もなかったのだ。


『愚か者の盟約』文庫版は、今年復刊されそうだ。いいタイミング、と言ってよいのかどうか。
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by sasakijo | 2009-05-16 20:01 | 日記