ここは佐々木譲が開設している備忘録ブログです。日々の暮らしと、本、映画について書いています。


by sasakijo

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弘前劇場『三日月堂書店』を観る。再演。

弘前劇場を観るのも四本目となると、このところいつも先生役(高校教師であったり、大学の講師であったり)で出てくる柴山大樹が楽しみとなる。本作でも柴山大樹はいつもの役どころ。弘前劇場ファンにはうれしい。

この作品、古本屋が舞台ではあるけれど、そこは古い映画館を改装した店だ。つまり二重の過去が集積された空間。鮮度を失った情報の残骸がある場所。そこを生活の拠点とすることは、ある種の断念の表明ということでもある。店主は、善良ではあるが生活力のない中年男性。同時代的生き方を静かに、しかし徹底して拒絶している。

彼が扱う和文タイプライターは、時代に取り残された想いの暗喩だ。彼が(極端に訥弁な人間のように)ひと文字ずつ打つその想いを受け止めてくれる者は、もうこの時代にはいない。

その男のかたわらに、「安定」を受け入れることができない女がいる。同じタイプの男も出てくる。

彼らはまた、周囲の人間の善意や善良さも、そのまま素直には受け入れることができない。選択肢があれば、必ず不安定、もしくは危険、転落、裏切りのほうを選び取ってしまう種類のひとたち。悪意があるわけではない。むしろ、何かの依存症のようにも見えるひとびと。わたしたちの血族の周辺を冷静に思い返せば、必ずこの手のひとがいる。特異すぎるひとびとというわけではない。

お芝居は最後に古書店主の劇的な成熟、変貌を見せて終わる。「安定を拒む」ひとたちにいいように振り回され、ただ翻弄されるのではなく、彼らを理解して対応する、たくましい大人への変容。

依存症的累犯者である男が最後にすするソーメンは、思いがけない敗北の味がしているはずだ。「それ」は、そのタイミングで起こるべきではなかったことなのだから。

前の公演『アグリカルチャー』の感想同様、これはわたしの勝手な解釈。まったく読み違えている可能性も大だ。
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by sasakijo | 2010-01-31 18:49 | 日記
わたしが撮った写真を、PICASAで公開しています。
スライド・ショーでご覧ください。

タイトル『馬のいる暮らし』だけは、友人が撮影した画像を含んでいます。
なのでこのアルバムの画像については、無断転載は不可です。

http://picasaweb.google.com/JohSasaki
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by sasakijo | 2010-01-31 07:11 | 写真アルバム
『北帰行』(角川書店)の見本刷りが届いた。
『本の旅人』に連載したもので、474p。かなり束のある単行本。
奥付は今月末になっているけれど、今週後半には書店に並ぶかな。

警察小説ではなく、クライム・サスペンス。
ロード・ノベルにも分類できるかもしれない。

発想のヒントになった事件のひとつは、2001年に北海道・稚内市で起こっている。稚内に拠点を持つロシアン・マフィアのボスが射殺された事件。現場に居合わせたロシア人女性ふたりも重傷を負った。撃ったのはフランス国籍のヒットマンだった(未逮捕)。

また荒唐無稽な話を書いた、と思われたくないので、あえてこのことを記す。たぶん北海道以外では、ほとんど報道されなかった事件のはずであるし。
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by sasakijo | 2010-01-24 12:02 | 日記

馬のいる暮らし

とあるメディアが、わたしの「馬のいる暮らし」について関心を持っているとか。
私生活を少し公開してしまったことでもあるし、馬関連の画像をアルバムにまとめてみた。

わたしが撮った写真ばかりではなく、友人たちからいただいた画像もまじっている。なのでこのアルバムの画像については、無断転載禁止ということでお願い。

土地柄、ここでは馬をペットとして飼っているひとは多い。都会で大型犬を飼うほどの飼育費なので、これはけっしてぜいたくな暮らしというわけではない。

わたし自身は、世話をする体力と時間の余裕がなくなり、馬を手放した。いま、わたしの小さな農場には馬はいない。


A life with horses
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by sasakijo | 2010-01-19 18:39 | 写真アルバム
公式ホームページ『佐々木譲資料館』のデザインをリニューアルしました。
まだ若干、意味のなくなった記述など残ったままですが、こういうタイミングなのでとりあえずアップです。

http://www.sasakijo.com/
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by sasakijo | 2010-01-17 08:52 | 連絡

直木賞を受賞しました

第142回直木賞を受賞しました。
対象作品は『廃墟に乞う』(文藝春秋)です。
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by sasakijo | 2010-01-14 21:30 | 連絡
『サードウォッチ』(制作ジョン・ウェルズ)第二シーズンを観終わる。

WOWOWで放映が始まったとき、何話かだけ観ていたシリーズ。そのときから、ニューヨークの現場系公務員(警察、消防、救急)群像劇であるこのシリーズのコンセプトに共感していた。

第一シーズンのDVDが出たときに買って観て、あらためてその質の高さに感嘆。先日(といっても半年ぐらい前になるのかな)第二シーズンのDVDが出たので購入、週に一話ぐらいのペースで観て、やっと観終えた次第。シーズン6まで制作されたシリーズだそうだけれど、日本でのDVD発売はこの第二シーズンまで。続きを観ることができないのが残念。

ジョン・ウェルズは大傑作テレビ・シリーズ『ザ・ホワイトハウス』のプロデューサーでもある。たいした人物だ。

第一シーズンの前半は、新人黒人巡査のデイビスの成長譚がメイン・ストーリーだったように思う。トーンも全体に明るめで、演出も少しコミカルなところがあった。でも後半からほかの登場人物たちのエピソードの比重が増え、少しずつシリアスさの度合いも増していった。

第二シーズンは、全体ではとても暗い。レギュラー登場人物である救命士のひとりは殺され、その射殺現場にいたもうひとりの救命士はPTSDから回復できないまま休職中。べつの救命士は女性医師との恋が破綻し、ひとりの消防士の結婚もあっという間に終わる。女性警官は生活苦から三人目の子供を中絶。偏見だらけで軽い青年警官も、その生い立ちの悲惨さを明らかにされる。

シーズンの最終エピソードは、中学生による銃乱射事件。いじめが理由とはっきり示される。珍しく、ストレートな社会批判の台詞で終わった、救いのない話だった。

とりあえず事件は一話ごとに解決する。あるいは決着をみる。でも、さほど大きなカタルシスがあるわけではない。むしろ、やりきれなさを感じる終わりかたのほうがはるかに多いという作り。だからといって、不満を感じさせることはなかった。

シーズン最終話を観終えたあと、強いお酒を少しだけ飲みたくなった。DVDを止めたあと、近所の静かなバーの片隅でシーズン全体のエピソードを思い起こしながら一杯、というのが、理想的だったかもしれない。近所に適当なバーなんてない、というのが、舞台であるマンハッタンとこことの違いであるが。
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by sasakijo | 2010-01-11 22:21 | 日記
『大聖堂 果てしなき世界』(ケン・フォレット、ソフトバンク文庫)を読む。年末年始で、文庫上中下巻、約ニ千ページ。

『大聖堂』(The Pillars of the Earth)の続編ということになっているけれど、共通するのは舞台がキングズブリッジというイングランドの架空の町、ということだけ。時代は正編からおよそ二世紀あとの千三百年代。主人公たちは、いちおう正編のトム・ビルダー、ジャック・ビルダーの末裔たちという設定だけれど、その血筋自体は直接は物語に関わる要素ではない。そもそも主人公たちは零落した一族として登場してくるのだ。なのでこれは完全に独立した物語。

正編はまるで巨大なタペストリーのような物語だった。これに対して続編『大聖堂 果てしなき世界』(World without End)は、長大な絵巻物という印象がある。輪郭があり、下地の文様も明快な前者に対して、タイトルどおり巻を開いても開いても終わりが見えてこないような。主人公たちを何度も危機が襲い、予測もできない方法でその苦難から逃れると、また新たな危機。それが「果てしなく」と感じられるほどに繰り返される。

しかし、そのエピソードひとつひとつが面白く、時間を忘れて読みふけってしまう。十四世紀のヨーロッパに引きずりこまれる。百年戦争、ペスト禍、そしてじんわりと進行する市場経済。教会の堕落と、権威の喪失。

きれいごとの歴史小説でないのがよい。暴力、犯罪、戦争などの描写のリアルさはもちろん、性風俗、魔女裁判、公開処刑、修道士、修道女の同性愛、ペストがもたらした社会崩壊まで、ケン・フォレットはイギリスの中世社会をけっして美化して描かない。そこは性も排泄もない中世テーマパークのような世界ではない。日本の歴史小説を読み慣れた読者はたぶん、随所で嫌悪を催すことだろう。

しかし、それを含めて楽しんだ。ストーリー・テリングという技術についても、あらためて考えてみたくなる小説。

ケン・フォレットがもしこの次書くとすれば、それは産業革命を真正面から素材にする物語ではないだろうか。
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by sasakijo | 2010-01-07 21:54 | 本の話題

年頭のごあいさつ

謹賀新年

みなさま、「それどころじゃないんだ」状態で年が明けました。
例年のことながら、年賀状は一通も出しておりません。
失礼の段、伏してお詫び申し上げます。

自主缶詰になっております。音信不通が続きますが、ご理解ください。

佐々木譲
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by sasakijo | 2010-01-01 00:00 | 連絡