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佐々木譲の散歩地図

理想の住居についての本2冊

『東京R不動産2』(馬場正尊・安田洋平、太田出版)
『「新しい郊外」の家』(馬場正尊、太田出版)

書店の建築書のコーナーに並べて置いてあった。『東京R不動産2』は、奥付では今年3月19日初版。『「新しい郊外」の家』は、09年1月25日初版。

前作『東京R不動産』は、面白い建築書だった。東京のリノベーション物件を紹介したものだが、東京にはこれほどに面白い建築もしくは住戸があって、それがじっさいに賃貸されるか売買され、そこを改装して住むひとがいるのだ、という事実に、驚かされたものだ。Casa Brutusあたりがときたま特集していたにせよ、だ。

『東京R不動産2』はその続編。ただし取り上げる範囲は拡大して、房総や湘南そのほか地方都市の物件と住人も紹介されている。

『「新しい郊外」の家』は、その東京R不動産のディレクター(建築士)である馬場正尊が、房総に戸建て別荘を新築するまでのドキュメンタリー。どんな住宅に住んだか、という視点からの「ある家族史」でもある(週刊文春にも似たコンセプトの連載があるね)。

またこれは都市論であり、日本の住宅政策批判にもなっている。この国には自分が住みたいと思う住宅が供給されていない、と一度でも感じたことのある読者は、共感するところ大だろう。

昭和30年代に日本住宅公団が標準化した規格型住宅は、すでに日本人の生活様式とは乖離している。日本人の多数派の生活に合った新しい規格が求められているはずだが、行政にはたぶんその問題意識さえない。

そうなると、現行規格型住宅では暮らせない日本人は、突拍子もない非規格型住宅を自力で建設するか、規格に生活を無理やり合わせて生きるか、ふたつにひとつの道しか選べない。実際上、大部分のひとは、制度が固定化された後者を選び取るしかないのだ。不便をこらえて。

せめて町の不動産屋が馬場正尊たちのようなセンスを持っていてくれるのなら、わたしも『東京R不動産、2』が紹介するような物件に住むことができるはずだ。いまは、物件にめぐりあたる可能性すらない。

でもたとえば喫茶店のオーナーが改装自由の古民家や倉庫を探し出せるのだから、どこかに回路はあるはずだとは思うのだけれど。
by sasakijo | 2010-03-17 00:39 | 日記