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佐々木譲の散歩地図

映画『アレクサンドリア』を観た

映画『アレクサンドリア』を観た。原題は『AGORA』、監督アレハンドロ・アメナーバル。
http://www.youtube.com/watch?v=FOrmvCuBpKQ

舞台は4世紀のエジプトのアレクサンドリア。とくに、四世紀かけて再建されたアレクサンドリア図書館で物語の多くが進行する。

主人公は、当時アレクサンドリアに実在した女性天文学者、数学者。ヒュパティア、と字幕に出る。これはギリシアふうの発音なのだろうか。音では「ヒュペイシア」。図書館の外では宗教対立が戦争レベルに達しているのに、彼女は地動説と、地球の周回軌道が楕円であることの証明に取り組み続ける。

理性と科学の象徴としての図書館と、これを無用とするひとびととの攻防戦の映画でもある。図書館支持派のわたしには、それだけでも共感度は高い。

当時のアレクサンドリアのオープンセットとCGがいい。ときどき視点が天文学的な高さに移るので、ちょうどグーグルアースの航空写真で当時の地球を眺めるような映像となる。クレジットを見ると、セットはマルタ島に作られたようだ。

歴史映画として、この作品が描くものは「古典古代の自由と明晰さの滅亡」の瞬間であり、キリスト教の伸張による「暗黒の中世」の起源である。キリスト教が人類を退歩させた、とはっきり言っているわけで、古代史もの映画としてはかなり過激なメッセージを持った作品だ。

広場(AGORA)では、キリスト教伝道者が、子供だましの「火渡りパフォーマンス」をおこなって、奴隷や貧しい人々の支持を集める。広場が、対話や議論の場から、熱狂やリンチの舞台へと変質していく様子も悲しい。

アレクサンドリア図書館襲撃のシーンでは、キリスト教徒が、書物を右手に掲げた神像を破壊し、喝采する。わたしはスペインでイエズス会創設者ロヨラの生地を訪ねたことがあるが、そこではロヨラが書物を踏みつけにしている像が崇められていた。理性と科学の否定。あの像を思い起こした。

「反知性主義」批判の映画、であり、ポピュリズムを熱く否定する作品。また、図書館映画、というジャンルでは、いずれスタンダードの一本として語られることになるだろう。

by sasakijo | 2011-03-06 13:08 | 日記