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佐々木譲の散歩地図

幕臣三部作完結篇『英龍伝』へ向けて

伊豆・韮山に取材に行っていました。
記念館である江川邸を訊ねるのは二度目。学芸員さんから、話を伺ってきました。

韮山代官・江川太郎左衛門英龍についての歴史小説『英龍伝』単行本化作業のためです。『英龍伝』は日経BP誌にかつて連載したものですが、単行本とするには原稿の量が少し足りず、加筆作業も後回しになっていました。いよいよかかります。『英龍伝』の刊行で、わたしの幕末幕臣三部作は完結します(三部作というのは、榎本武揚を描いた『武揚伝』、中島三郎助が主人公『くろふね』と、この『英龍伝』)。

三人とも、技術に明るい幕臣であることが共通しています。
江川英龍は行政官ながら、測地術に詳しく、砲術家でもありました。韮山に反射炉を作って、銃や大砲の製造を手がけています。よく知られている品川のお台場(砲台)の設計、築造も彼の事績。

中島三郎助は浦賀奉行所与力で、ペリーと最初に接触した日本人であり、日本で初めての洋式帆船を建造したサムライです。長崎海軍伝習所に学び、航海術や造船術、蒸気機関学を習得しています。箱館戦争の最終局面で息子ふたりと共に戦死。

榎本武揚は、長崎海軍伝習所に学び、さらにオランダに留学、造船術や蒸気機関学のほか、国際法も学んで帰国した男。江川英龍の江戸屋敷でオランダ語を学び、ジョン万次郎が江川英龍手付として召し抱えられてからは、彼から英語を学んでいます。

日本の近代化は、倒幕側の「志士」たちによって進められた、というイメージがありますが、じっさいにそれを営々と準備していたのは、とくにこうした技術系の幕臣たちであり、進取の気風に富んだ職人たちでした。彼らは酒をくらいつつ天下国家を論じるのではなく、まず謙虚に西洋に学び、みずから手を動かし、モノを作って、日本の近代化への道を固めていたのです。

小説の「幕臣三部作」とは別に、わたしは三人の生涯についての啓蒙書も書いています。
『幕臣たちと技術立国』(集英社新書)
残念ながら品切れ。
新史料も出てきているし、ほんとうならこの新書も改訂版を出したいところです。


by sasakijo | 2017-05-28 18:38 | 日記