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佐々木譲の散歩地図

札幌座『ブレーメンの自由』

シアターzooで、札幌座(TPSあらため)の新作公演『ブレーメンの自由』を見てきた。演出は弦巻楽団の弦巻啓太。

斉藤歩演出ではない札幌座って、どんなものだろうとかなり不安を感じつつ席に着いたのだった。自分に合うと感じる劇団や演出家にひとつ出会うために、これまでどれだけの「はずれとの遭遇」が必要だったか。それを考えたら、この不安にも理解をもらえるだろう。

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの戯曲の舞台化。弦巻啓太は、この作品を、観客の感情移入を徹底的に拒絶するように演出する。俳優さんたちも、翻訳調の日本語の棒読みと取れる台詞回し。かなり意識的な「でくのぼう」のようなお芝居。それでも緊張に目が離せなくなる。

演出家の意図は、情念抜きに台詞の(言葉の)意味だけを伝えようということなのだろう。おかげで、ゲーシェという19世紀初頭のドイツ人女性の犯罪の様相が、普遍性のある「女性人権活動家の悲劇」として昇華されている。

札幌座のファンにはどうしても先生の役柄イメージの強い(わたしだけの偏見か?)宮田圭子さんが、ある意味のラディカル・フェミニストを出ずっぱりで演じる。その孤高な闘いぶりの恐ろしいまでの美しさ。観客の共感を拒む演技だけれども、ときおり見せる激情に、観客は戦慄する。主人公の絶望の深さを知る。

いやはや、自分の好みとは全然ちがうテイストのお芝居だったけれども、楽しんだ。しばらくひとり、バーでお酒を飲んで、気持ちを鎮めて帰ってきた。
# by sasakijo | 2013-06-30 16:24 | 日記

舞台化3作品集中公演のご案内

2012年11月6日(火)から16日(金)まで、東京両国のシアターΧ(カイ)で、わたしの原作による舞台を3作集中公演します。全体のタイトルは『佐々木譲の世界 夜と弾丸』
わたしがメンバーである演劇制作ユニット、グループ虎と、現代制作舎によるプロデュース公演です。

上演作品は、
『新宿のありふれた夜』(角川文庫)
『笑う警官』(角川春樹事務所ハルキ文庫)
『荒木町ラプソディ』(『地層捜査』文藝春秋)
の3作。

これまでグループ虎公演でおなじみの俳優さんたちはもちろん、あらたに出演を快諾くださった俳優さんたちも、このいささか冒険的な公演に挑みます。

出演(50音順、敬称略)
天野舞衣子 石井ひとみ 上田ゆう子 絵理子 大槻修治 小河原真稲 斧原ゆう子 小幡美佳 香川耕二 風間舞子 梶雅人 川久保秀一 草薙仁 桑原なお 小金井宣夫 近藤弐吉 斉藤隆 寿大聡 白井真木 杉本茜 世理 仙波示右介 田村将志 鶴忠博 中野若葉 中村尚輝 長通克佳 西岡創 根本和史 林真之助 林千津子 林美月 樋口泰子 福森加織 藤村一成 藤田三三三 古川がん 真一涼 三月達也 盛岡弘一郎 夕貴まお 吉澤健

舞台化3作品集中公演のご案内_a0019702_19134372.jpg


チケット問い合わせは
現代制作舎
電話03-3482-3383
fax.03-3482-3387
e-mail:m08050999789@ezweb.ne.jp

前売り自由席4,500円指定席4,800円
2本自由席7,500円指定席8,100円
3本自由席10,000円指定席10,900円
# by sasakijo | 2012-09-29 19:14

2011年の重大ニュース

わたしの今年の重大ニュース。
順不同です。思いついたものを、おおむね時系列に。

・『婢伝五稜郭』(朝日新聞出版)刊行。単行本刊行前の昨年10月、グループ虎のプロデュース公演として、俳優座劇場で舞台化されました。

・3.11体験。その日わたしは札幌にいたけれども、いろいろな意味で。

・フィレンツェ・ロングステイ。『獅子の城塞』(小説新潮で連載)の準備で、フィレンツェのアパートメント・ホテルに4月末から5月末まで一カ月滞在。ここをベースに関係各所を取材。『密売人』の後半を書いたのも、この時期。

・小型船舶操縦免許一級取得。海洋冒険小説執筆準備の第一段階、船と海とについて体系的に学ぶべく、まずは尾道の専門学校で短期集中合宿を受け、免許を取得しました。わたしは外洋に出て行ける海の男です。

・『密売人』(角川春樹事務所)刊行。道警シリーズの第5弾。某警察本部の捜査情報漏洩と、関係した警部の自殺事件をヒントにした作品です。

・ヨーロッパ取材旅行。『獅子の城塞』取材のため、オランダ(ブレダ、ヘレブートスライス)、スペイン、ポルトガル取材。ポルトガルは今度の取材旅行が初めての国でした。

・『警官の条件』(新潮社)刊行。『警官の血』の続篇です。安城一族三代目の警察官・安城和也と、彼が「売った」先輩刑事・加賀谷仁とが再度対峙する物語。

・練習帆船あこがれで、5泊6日のセイル・トレーニングを受ける。海洋冒険小説執筆の準備、第二段階です。帆船を「身体で知る」ふたり目の日本人小説家となりました。ひとり目は小川一水氏。

・札幌大学での講演で、人生の秘密をカミングアウト。高校時代から二十歳のころにかけて、わたしは美術系クリエーター志望だったのでした。苦い断念の記憶なのですが、ようやくそのことを語れるようになりましたね。

・日本アレンスキー協会名誉会長就任。協会設立記念コンサートであいさつ。冗談で就いてしまったような名誉ポストですが、おかげでいつになく真剣に音楽を聴いた年ともなりました。

・『地層捜査』(文藝春秋、2012年2月刊行)の舞台化決定。オール読物に連載中に舞台化と決まり、かなり早い段階から制作準備に関わりました。お芝居への関わりがいっそう深くなっています。

・メインのデスクトップPCを入れ換え。Windows7環境に。わたしにとっては、やはりかなりのおおごと。

来年も、いい重大ニュースが続くことを期待して。
# by sasakijo | 2011-12-31 00:17 | 日記

中島三郎助について語った

先日、函館で中島三郎助についてNHK大阪から取材を受けました。
放送予定の連絡があったので、ご案内します。

◎歴史秘話ヒストリア
 「世にも数奇なラストサムライ
  ~幕末 いつも”そこ”にいた男・中島三郎助~」
 本放送:7月6日(水)22:00~22:43 NHK総合
 再放送:7月27日(水)16:05~16:48 NHK総合

※再放送については、国会中継などにぶつかることが多い時間帯でもあり、
 変更・中止になる場合もございます。あらかじめご了解下さい。
とのことです。
# by sasakijo | 2011-06-25 07:30

絶対安全、の虚構

午後4時の枝野長官の会見を見るかぎり、深刻な事態は脱したのかもしれない。被曝や爆発の危険の中、献身的に注水作業にかかっている現場のひとを想うと、つくづく頭が下がる。同時に、現場の犠牲によってこのデリケート過ぎるシステムを維持することの限界も思う。

いまこの時点でも原発絶対安全を主張するひとたちは、たぶん科学者・技術者の知性に対して無条件の信頼があるのだろう。しかし阪神大震災を思い出して欲しい。被災直後、関わった地震学者が、高速道路の建設計画のために想定数値を低く報告したと告白していた(その後の追及はなかったが)。

LA地震のときに視察した日本人学者たちは、高速道路の崩壊現場で「日本では絶対に起こらない」と強調していた。この映像は、阪神大震災直後、アメリカ、カナダの放送局で繰り返し流れた。日本人学者たちのレベルが嘲笑されていたのだ。

また、絶対の安全性を確保するはずのプラント設計は、施工業者によって具現化される。仕様書の指示から鉄筋を何パーセント抜くか、それを追求する業界が建設工事を請け負うのだ。

設計が目標とした耐震性も強度も、じっさいは図面上の数値に過ぎなくなる。やはり阪神大震災では、崩壊した高速道路の橋脚から、鉄筋の代わりに何が出てきたか思い出そう。


ビル建設の作業員として働いた実体験で記せば、工事途中の検査はしばしば無視される。型枠組みのあと、その検査前日に生コンクリートを打ち込み、検査省略は「手違い」として工事は進む。このとき、コンクリート打設部分を解体して一からやりなおせ、と業者に命じる検査員(あるい施工主側幹部)はいない。

なぜ建設業者が検査を逃れるか、理由は書くまでもない。

また、安全を担保するはずの厳格に定められたマニュアルが、現場ではしばしば「弾力的に運用される」ことも、東海村JCO臨界事故で、わたしたちは承知している。

なるほど、技術者たちは設計段階では「絶対安全」をクリアしたかもしれない。しかしプラントが出来上がってゆくあらゆる過程で、その技術的裏付けは骨抜きにされてゆく。稼働したあとも同様だ。結果として、設計上は起こるはずのないことが起きて、技術者たちは首をひねる。

アポロ計画では、宇宙船の部品のすべてにわたって99.9999パーセントの信頼性を確保したという。それができたのは、宇宙船がそのサイズの工業製品であったからだ。原子炉はともかく、原発プラント全体は、同じ基準での管理は不可能だ。

鎖の強度は、もっとも弱い輪の強さで決まる。巨大な原発プラントに一カ所でも、手抜き工事、もしくは施工ミスがあれば、めざした強度は持ち得なくなる。作業員が「燃料計から目を離した」という事態も、技術者たちは想定していないだろう。

ふつうの「現場の感覚」があれば、「原発は絶対安全」という主張など、虚構もしくは意図された神話に過ぎないと身体で認識できる。

そしてその虚構に寄りかかることのリスクは、火力や水力発電システムの比ではないのだ。

節電? 受け入れようじゃないか。二者択一だというなら。
# by sasakijo | 2011-03-15 17:39 | 日記