人気ブログランキング | 話題のタグを見る

佐々木譲の散歩地図

あっちのポピュリズムに対しては

『ポピュリズムへの反撃 現代民主主義復活の条件』(山口二郎、角川書店、新書)

タイトルとおり、「小泉型政治」を批判し、民主主義復活の可能性を探ろうとする論考。2008年から2010年まで、神保町フォーラムでおこなわれた講演をまとめたものだという。刊行は昨年10月。

著者は昨年末、たしか週刊朝日かAERA誌上で、自分が民主党政権実現を訴え続けてきたことについて「リフォーム詐欺に加担した気分」と述懐していたと思う。民主党の理論的支柱のひとりである著者が「詐欺加担」の気分なのだ。二年前の選挙で民主党に一票を投じた市民の多くが、詐欺被害に遭った気分であっても、とくべつ被害妄想というわけではないだろう。

この幻滅が一気にファシズムに向かう可能性もなくはないわけで、その意味でも民主党の罪は大きい。財政破綻の夕張市が明日の日本なら、政治破綻の阿久根市も明日の日本にならないという保証はないのだ。

それでも著者は、幻滅までも含めて市民の政治的成熟の一過程と見る。鳩山内閣で幻滅というレッスンを早めに一度受けたことは、悪いことではなかったと。本書はポピュリズムの分析であると同時に、民主党の政権運営の稚拙さを批判する論考でもあるので、読後は少しシニシズムからは解放された気分になる。

著者は、小泉純一郎が駆使したポピュリズムを批判しつつ、ポピュリズムが民主主義にエネルギーを与える肯定的な側面があることも認める。だから著者は、敵味方の線を引き直すことで、ポピュリズム対してはポピュリズムで対抗しよう、と提言する。たぶんそれは、いま考え得るもっとも現実的な、政治的破綻回避の道だろう。

小沢一郎への批判的視点にも共感できる(この点は、神保町フォーラムのほかのメンバーとは意見を異にするところらしい)。

また北海道の住人として、著者は鈴木宗男についての評価が、北海道以外の土地ではちがっていることの違和感を書く。でも、北海道外での宗男人気は、かなりの部分、佐藤優効果である。鈴木宗男が土着型利益配分政治の典型という著者の評価には、誤りはないのだ。その評価が、小泉の敵創出のステレオタイプ化に利用されたという面があったとしても。

社民党やみんなの党を斬って捨てる部分も痛快。と、ひさしぶりに本のレビューなど。
# by sasakijo | 2011-01-10 20:47 | 本の話題

『婢伝五稜郭』本日刊行

新刊『婢伝五稜郭』(朝日新聞出版)は、本日発売。本体1600円。宇野亜喜良さんの装画です。

これは朝日新聞出版『小説トリッパー』に短期集中連載した作品。『五稜郭残党伝』『北辰群盗録』に続く、箱館戦争後日談です。自分では「五稜郭三部作」の最終作という位置づけ。

主人公は、医師・高松凌雲のもとで看護婦として働いていた若い女性。「官軍」による箱館病院分院での虐殺(史実)をきっかけに、彼女は戦う女性として変貌を遂げます。

榎本武揚は、箱館統治時、プロシア人R・ガルトネルに土地一千町歩の貸与を認め、西洋式農場の建設にあたらせました。官製史観では「国土を外国人に切り売りした」とぼろくそに評される事実ですが、これが日本の農業近代化の最初の一歩でした。本作では、このガルトネル農場も主要な舞台となります。

また『婢伝五稜郭』は、去年10月、グループ虎(演劇制作ユニット。わたしは座付き小説家)と10Quatreの共同プロデュース作品として舞台化され、俳優座劇場で上演されました。来年、また同じ俳優座劇場で、新バージョンが上演される予定です。
# by sasakijo | 2011-01-07 05:48

謹賀新年

2011年の単行本ほか作品刊行の予定。

・単行本
『婢伝五稜郭』朝日新聞出版
『警官の条件』新潮社
道警シリーズ第5弾、タイトル未定
『地層捜査』文藝春秋

電子絵本iPad版2点、HAJ

さらに
『英龍伝』(毎日新聞社)加筆。

などです。
# by sasakijo | 2011-01-01 12:44 | 日記

今年一年を振り返る

年末特別企画。今年一年を振り返る。
わたしの私的重大ニュースを、時系列に。

直木賞受賞。永年勤続表彰である。授賞式の夜、作家仲間たちが遅くまでお祝いしてくれたことが感激だった。

『北帰行』刊行、角川書店。「道行」サスペンス。設定は稚内でじっさいにあった事件をもとにしている。

『警官の条件』小説新潮、連載開始。『警官の血』の続編を書くという無謀な企てに踏み出した。

札幌交響楽団、指揮・高関健で、ショスタコーヴィッチ交響曲第8番を聴く。ショスタコ全曲ライブ制覇を決意させてくれた。

季節的避難地引っ越し。引きこもりにならないよう、少し利便性の高い場所に移した。

体重が危機ラインを突破。ストレス性過食が続いたせい。わたしはもう留保なしのメタボだ。

劇団さっぽろ『五稜郭残党伝』函館公演。自分の仕事がお芝居づいてきた感覚。

『地層捜査』オール読物、連載開始。警視庁の捜査員を主人公にした警察小説。四谷荒木町が舞台。

『カウントダウン』刊行、毎日新聞社。夕張市に取材した、ポリティカル・ノベル。

グループ虎『婢伝五稜郭』俳優座公演。座付き小説家なので、お芝居のための原作をこれからも積極的に書いてゆく。

ベトナム、ホーチミン・シティ旅行。マジェスティック・ホテルに滞在。

電子絵本(iPad版)『サーカスが燃えた』を世界に配信。日本のAppStoreでのDL数、無料アプリの部門で総合1位を一週間キープ。
# by sasakijo | 2010-12-30 23:05 | 日記

『サーカスが燃えた』レビューさらに

もうひとつ、『サーカスが燃えた』のレビュー。
作品評というよりは、この電子書籍の(おおげさに言えば)「歴史的な意味」という視点から書いていただいています。

http://njmnjm.blogspot.com/
# by sasakijo | 2010-12-22 22:36